Nature系のオンライン学術論文誌「Scientific Reports」に創造工学科 電気・電子コースの石山謙講師らの研究成果が掲載されました

創造工学科 電気・電子コースの石山謙講師(筆頭著者)と東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻 熊本篤志准教授による論文「Volcanic history in the Smythii basin based on SELENE radar observation」が、Nature系のオンライン学術論文誌「Scientific Reports」に掲載されました。

■論文の概要

本論文では、日本の月周回衛星「かぐや」により取得された観測データに基づき、月面で噴出した溶岩の地下構造および溶岩噴出量の時間発展を報告しました。

月は、約45億年前に誕生した後、後期重爆撃期(約40〜38億年前)(※0)において、月面上で巨大な天体の衝突が発生し、月の主要な盆地(※1)が形成されました。その後、月の表側(※2)の盆地内で火山活動(溶岩の噴出)(※3)が起こり、約34億年前まで活発であったこと、月の裏側では火山活動が低調だったことが知られています。本研究では、月の火山活動の解明を目的として、これまで調査されていなかった月の表側と裏側の中間に位置する「スミス盆地(※4)(図1)」に注目し、その場所での溶岩の地下構造および、溶岩の噴出量の時間発展を調査しました。

本研究では、日本の月周回衛星「かぐや」により取得された月地下レーダ観測データを用いて、スミス盆地の北側の溶岩領域で、地下構造を調査しました(図2)。その結果、4つの地下反射面を確認し、それらの深さが平均で130m、190m、300m、420mであることが分かりました。北側の溶岩は、約40〜30億年前の間に噴出しており、1年あたりの噴出量は約7.5×10-6 km3でした。一方で、南側の溶岩は、約40億年前までに噴出しており、先行研究の結果を踏まえると、1年あたりの噴出量は約8.4×10-4 km3でした(図3の赤点)。つまり、北側の1年あたりの噴出量が、南側よりも約1/100に低下していたことから、スミス盆地では、溶岩の噴出が、約40億年前以降、急激に低下し、火山活動が低調になったことが明らかとなりました。この時期は、月の表側の火山活動が低調になる時期(約34億年前:図3の黒点)とずれていることから、月の表側や裏側、その中間の位置において、月内部の温度が異なる時間推移をしていたと考えられます。さらに、溶岩の重量によるリソスフェア変形(※5)を評価した結果、スミス盆地では、約40〜30億年前の間で、急激な月内部冷却によりリソスフェアの厚さが約60km増加し、発達していたことも明らかになりました。

 

用語解説:

0:地球や月へ巨大な天体が衝突していたと考えられている期間のこと。

1:周辺よりも「くぼんだ地形」のこと。

2:地球から見える月表面を表側と呼び、地球から見えない月表面を裏側と呼ぶ。

3:地球から月を見た時、黒っぽく見える領域が、火山活動があった所。

4:月の南緯1度、東経87度に位置する盆地のこと。

5:リソスフェアとは、月の上部(地殻とマントル上部)が冷えた領域のこと。リソスフェアはゴム板のような振る舞いをするため、重い物がリソスフェアの上にのると、リソスフェアは凹み変形する。

 

■全著者:Ken Ishiyama, and Atsushi Kumamoto

■URL:https://www.nature.com/articles/s41598-019-50296-9

(論文は、上記のURLにて、どなたも無料で読むことが可能です)

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図1 月表面の地形地図。(A)月の表側の地図。黒の点線で囲まれているように、月の表側の縁の部分にはスミス盆地、月の表側には雨の盆地と呼ばれる場所がある。(B)月の表と裏側の中間の地図。白の直線は、図2の観測場所を示す。

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図2 スミス盆地の地下構造。(A)地下反射面の補助線なし。(B)地下反射面の補助線あり。

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図3 スミス盆地における溶岩の噴出量の時間発展。赤点(スミス盆地)は本研究結果であり、黒点(雨の盆地:図1A)はOshigami et al.[2014]の結果である。赤と黒の異なる盆地で、溶岩の噴出量が減少する時期が異なることがわかる。